この世界の片隅に、を見たあとに/マイマイ新子と千年の魔法
圧倒的なクオリティと、積み上げてきた時代考証によって、日本アニメ映画の歴史に壮絶な存在感を示した「この世界の片隅に」。
その監督である片淵須直氏の前作品である「マイマイ新子と千年の魔法」について、「この世界の片隅に」と関連性を考えながら、なぜ、ここまで片淵監督の作品が愛されることになるのか、その理由について考えてみました。
当ブログでは、「この世界の片隅に」の感想&解説も記載しておりますので、是非ご覧いただきたいと思います。
想像力豊かな女の子
「マイマイ新子と千年の魔法」の主人公である新子(しんこ)は、山口県に住む女の子です。
麦畑が広がる村で、大好きなおじいちゃんに千年前の風景や人々について教えてもらうことで、彼女は、想像力を働かせながら日々を生活しています。
スポンザードリンク
?
そんな彼女の元に、都会からやってきたのが貴伊子(きいこ)です。
彼女はすぐに彼女と仲良くなり、やがて、新子を中心として、まわりの子供たちが、精神的に大人になっていくさまが描かれます。
「この世界の片隅に」と「マイマイ新子と千年の魔法」は、片淵監督という共通項があるだけですが、はからずも、二つの作品そのものにも共通項があります。
その一つは、主人公の想像力です。
「この世界の片隅に」の主人公すずは、想像力が豊かです。彼女の主観から物語りは語られ、時には、絵の具をぬったそのままのような映像がでてきます。
新子もまた、想像の中の生き物を考え、千年前に生きていた人々の生活に思いを馳せるのです。
ラクガキのようなものが動き回り、それが、美しい風景と違和感なく同化するのは、アニメーションならではの力でしょう。
そして、どんな世界であっても、想像力こそが、現実を乗り越えるために必要である、ということは、二つの作品に共通するテーマだと考えられます。
また、方言を積極的に取り入れているところも素晴らしいです。
「この世界の片隅に」でも、広島弁が使われており、その会話が非常に面白い。標準語で喋ることもいいのですが、方便をつかうことで、地元との密着感、愛着、その裏側にあるものを読み取ることができるようになっていく、きっかけになる、という点においても、非常に良い効果をあげていると思われます。
見え隠れする大人の世界。
また、マイマイ新子でいえるのは、大人の世界によって子供たちが大人にならざるえない、という点です。
「この世界の片隅に」では、日常を慎ましやかに暮らしている主人公ですが、戦争という大きな流れによって、強制的にみなくてもいいものをみて、大人にならざるえない悲しみも描いています。
マイマイ新子では、ネタバレは避けますが、新子たちのグループのリーダー格であるタツヒコは、大変な不幸に見舞われます。
それまでは、明日についての希望を語るのですが、唐突な大人の事情によって、明日というものを信じられなくなってしまいます。
新子もまた、「明日」のために戦いますが、彼女は、タツヒコととある会話をするのです。
「子供たちに、伝えていく」
この物語は、世代を超えて伝えていくことを主題としている物語なのです。新子は見た目は子供のままですが、その精神は大人へとかわっていきます。
また、大人の事情によって田舎に引越しし、元気をなくしていた少女貴伊子は、新子からの想像力によって救われ、やがて、田舎の子供へとかわっていくのです。
片淵監督は、インタビューにおいて、以前につくった作品「ブラックラグーン」で大人向けの作品をつくったことから、次回作では、子供のための作品をつくろう、と考えていたそうです。
マイマイ新子は、田舎の田園風景。
子供たちの友情や、子供たちだけの秘密。
成長していく様を描いた作品となっており、子供たちに安心して見せることができる作品となっています。
片淵監督の人柄か。
マイマイ新子は、物語の起伏がある作品ではありません。
妹がいなくなって探すシーンは、ジブリの「となりのトトロ」を思い起こさせることもありますし、田舎からやってきた転校生なんて、もう、何度もみたような気がするところですが、そのあたりは置いておいたとして、物語そのものはそれほど重要ではないのです。
予算の関係なのか、「この世界の片隅に」のような、ものすごくカット数を増やしたアニメーションというわけでもありません。
ただ、片淵監督の人柄が伝わってくる、やさしい物語となっています。
「この世界の片隅に」でもそうですが、マイマイ新子においても、片淵監督は地元との交流を非常に大事にしています。
実際に山口県に存在する場所がつかわれており、監督自ら説明をしてくれる「マイマイ新子探検隊」なども行われており、地元との密着度の高さが見受けられます。
「この世界の片隅に」では、やはり、広島の話しを聞いた人たちの間で会が結成され、色々な面で片淵監督はサポートを受けながら作品をつくっていったそうです。
応援する人たちの力。
「この世界の片隅に」が、クラウドファンディングによる出資によって、パイロットフィルムをつくった、ということは、有名な話ですが、「マイマイ新子と千年の魔法」でも、応援してくれる人の力が大きく影響しています。
上映してわずか3週間で打ち切りになってしまう、という映画館が続出し、興行的には、失敗といわざるえない状態でした。
ですが、口コミで人気が広がり、結果として、2年間も上映したところがあるそうです。
片淵監督作品の魅力は、徐々にその魅力がわかる作品となっており、スルメのように味が広がっていく、という特徴があるように思います。
アニメーションはお金がかかるものですし、どんなにCGをつかったとしても、時間も費用もかかってしまうものです。
ですが、片淵監督は、それらの問題を方やクラウドファンディングで補ったり、地元の人たちと協力しながら、アニメや作品の力で舞台をもりあげていこうとする形をとっており、このような作品の作り方は、ますます支持を集めていくに違いありません。
以上、「この世界の片隅に、を見たあとに/マイマイ新子と千年の魔法」でした!