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シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

「終わらない人 宮崎駿 NHKスペシャル」を見て/感想  

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宮崎駿監督が「風たちぬ」を公開し、その後引退宣言をしてから3年が過ぎました。


もののけ姫」の時から、監督引退宣言を何度もした監督ではありましたが、そうはいっても今度こそ本当に引退してしまったのではないか、という思いを持っていたのが実際のところです。


しかし、NHKはそんな中にあっても、宮崎駿監督を追い続け、その心に火がつく過程を捉えたのが、11月13日に放映されたNHKスペシャル「終わらない人 宮崎駿」なのです。


まだ、某場所等で映像がみれる人も多い中と思いますので、見所と感想を含めながら、

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「終わらない人 宮崎駿」について語ってみたいと思います。

余生を過ごす駿

番組は、宮崎駿監督が人がいなくなったスタジオジブリで過ごす光景からはじまります。


宮崎駿監督引退宣言の後、製作部門を解散し、それぞれのアニメーション会社へとスタッフがいなくなりました。

そのおかげで、大ヒットした新海誠監督「君の名は」には、スタジオジブリ出身のアニメーターが大量に採用されたという話しもあるぐらいです。


「俺はリタイアじじぃですよ」

宮崎駿氏は言います。

邪推しますに、たしかに、スタジオジブリは100人を越えるスタッフを擁したアニメーション会社の中でもかなり異例の会社となっています。


新作アニメをつくるたびに、その収入によって多くのスタッフの家族や人生をかかえる、という点については、たしかに、年齢的なプレッシャーは強かったものと思われます。

 

当時のジブリ


スタジオジブリは、プロデューサーである鈴木敏夫氏の手腕もあって、アニメをつくっている現場を映像として出すというのが一つの特徴にもなっています。

特に面白いのは、『もののけ姫」はこうして生まれた』です。


これは、映画「もののけ姫」の撮影現場などを、400分にもわたる時間で見せられるドキュメンタリー作品となっています。

宮崎駿の天才性が如何なく発揮されている姿をみることができます。

 

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宮崎駿が手を加えるだけで、あっという間に見違えるほど動きがよくなる様は、それだけで驚かされます。


「終わらない人 宮崎駿」でも、昔の映像がちらっと紹介されますが、その中では、スタッフが「辞めろ!」と言われて怒鳴りつける姿がでてきます。

現場の凄まじさが一発でわかるシーンです。


NHKスペシャルでは、冒頭のほうでぼそっと宮崎駿が言います。

「後継者を育てたよ。後継者育ててやらせると、その人たちの才能を食べちゃう」

 

スタジオジブリは、会社ですので、宮崎駿だけの才能に頼るわけにはいきませんでした。

コンスタントに作品をだしていき、収益を保つことでこそ会社というものは存続ができるからです。

そのため、有名どころでいえば近藤喜文監督「耳をすませば」。

 

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最近で言えば、「借り暮らしのアリエッティ」など。後継者はたしかに育てようとしています。

 

ゲド戦記」や「コクリコ坂」で苦労した息子である宮崎吾郎氏もおりますし、後継者の育成を行いながらも、絶対的な天才の前には、消え去るのみであったというのが実情です。

 

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耳をすませば」の近藤 喜文氏が最有力候補でありましたが、病気により他界。

その後は、スタジオジブリを継げる存在がでてこれなかった、という中で、とうとう宮崎駿監督の引退宣言になってしまったのです。

宮崎駿再び


さて、そんな宮崎駿氏が再び長編をつくるかもしれない、という激震が、NHKスペシャルで発信されるとは思っていませんでした。


番組中で、宮崎駿が長年構想していた「毛虫のボロ」を、三鷹の森美術館の短編映画として流すため、CGでつくろうという話しになったところから、番組は動き始めます。


「CGでつくってみたら?」という鈴木敏夫プロデューサーの宮崎駿を動かすテクニックは、本当に素晴らしいと思います。


そして、CGクリエイターの人たちによって毛皮のボロが動いているシーンがみせられます。

このシーンはたしかにいいです。
アニメっぽい色づけがされた毛虫のボロが、毛をゆらしながら歩く。


それだけの映像ですが、たしかに、ボロが動いています。
このあたりの感覚は難しいところですが、毛が風に揺れながらうごいている何気ない動きこそが、宮崎アニメの真髄だからです。

これがCGでできるなら、できるかもしれない、と思った宮崎駿の考えがわかるような気がしました。

 

時間がない。

 

短編映画をつくることになった宮崎監督は、若いCGクリエイターたちとともに製作を始めます。


生まれたばかりのボロが、はじめて世界を見るシーン。

CGとしてはとてもいい動きをしますが、宮崎駿


「ちょっとね、振り向き方が大人になってる」


と言います。

詳しいことは番組をみてもらいたいと思いますが、それを聞いておそらくスタッフは、はっとなったと思います。


ボロはいい動きをしています。

でも、それは、生まれたばかりのボロではなく、キビキビとした動きをしてしまうことで、「生まれたばかり」というものが表現されていなかったのです。


赤ちゃんは本当はもっとすばやく動きたくても、自分の身体の使い方を知らないから、うまく動けません。

架空の生き物である毛虫のボロであったとしても、それは同じであるはず。

そういうものをCGで表現するというのは、まさにCGがアニメーションに近づくための重要な示唆であると思います。


また、ボロが生まれたときに、毛がぴんっとはねるシーンがあるのですが、宮崎駿はそれに対して、自らペンタブレットをつかって書き込みます。

「ビーン、と。こういう風にでてくるのかな」

アニメーションの極意として、省略にこそ本質があると思います。

CGは連続した動きですが、アニメーションはきっちりと24コマで書かれます。
省略することによって結果としてでる躍動感を表現するのは、CGでは難しいことに違いありません。

 

後にでてきますが、ドワンゴの会長川上氏こと、カワンゴがCGによるアニメーションをデモンストレーションします。

それは、人工知能にアニメーションを覚えさせることによって、人間では絶対に思いつかない動きをさせる、というところに面白さを見出そうとするものです。

それに対して、宮崎駿

「僕はこれを面白いと思ってみることができないですよ。極めて不愉快ですね」


と言って、ドワンゴスタッフ一同絶句します。


カワンゴ氏は、人間じゃ考えつかない動きだからこそ、面白いことができるんじゃないか、と言いたかったのでしょうが、それはしっかり宮崎駿はわかった上で、不愉快だと言ったのです。


宮崎駿は言います。

「人間のほうが自信がなくなっているからだよ」


人間じゃないからこそ面白いものが思いつくというカワンゴ氏。
しかし、そこには、宮崎駿が言ったように人の痛みが感じられない。

でも、非人間が考えるものに面白さを探そうとするなんていうのは、たしかに、人間のほうが自信がなくなっている、と考えてしかるべきでしょう。


CGクリエイターである櫻木氏とカワンゴ氏の違いというのは、おそらく、そのあたりにあると思います。

毛虫のボロに命を与えるCGもあれば、人の痛みを考えない命のないCGもある。

 

この対比をあえてだしたのは、NHKとして意識的な試みだと思います。

そうでなければ、スタジオジブリと色々提携している、ドワンゴを悪く言うようにしか見えないですし、そもそも鈴木敏夫プロデューサーのチェックが入ってしまうはずです。

そんな邪推はともかくとして、NHKスペシャルでもっとも言いたかったのは、宮崎駿の復活と、クリエイターがどう死ぬべきかと語ったことだと思います。

 

負けず嫌いの駿


「リタイアじじぃだから」という宮崎駿監督ですが、言葉通りには受け止める必要はないと思います。


CGによるアニメ短編が軌道に乗りかけたところで、宮崎駿は、ものすごく精密なレイアウトを書き始めます。

無数の虫たちが動き回るシーンですが、それだけで、圧倒的な宮崎駿の実力がわかります。

正直、何回みても飽きません。
小さな虫一つ一つに命があって、それが、それぞれに動いているのがわかるようでした。

「面白いことは人にやらせない」


それは、若いCGクリエイターたちが面白いものをつくってくることにして、宮崎駿が負けられない、と思って言った言葉に違いありません。


「映画できちゃったときに、情けない思いをしないことが一番大事だから。ああ、やっときゃよかったってことが絶対ないように。やったけどダメだったね、ってほうがましなんだよ」


といって、「本当にそう」と何度も念を押します。


漫画家である故手塚治虫氏もまた、死ぬまで若い人たちの才能に対抗し、漫画を描き続けました。

創作をするものというのは、やはり、負けず嫌いでなければならない、ということがよくよくわかるところです。

 

クリエイターの終活術

 さて、いきなり話しがそれますが、「終活」というものが一時もてはやされたことがあります。

人生の終わりが見えたとき、身辺を整理する、ということなわけですが、さて、NHKスペシャルを見たときに、創作者にとって、終活なんてものがあるのだろうかと思いましたね。

 

終活の教科書 (タツミムック)

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再び短編をつくりはじめた中、番組スタッフに「宮崎さんを動かすものはナンですか」と言われて宮崎駿は言います。

「何もしないってつまらないからじゃない?」

そして、彼は自分以外の同じような人たちについて語ります。

「老監督という人たちがそうですよ。映画つくっているときが一番おもしろいんですよ。だけど、ヘボは作りたくない、ていう」

 

どんな状態であったとしても、自分自身が認められないものはつくらないという、宮崎駿のプライドがありありと伝わってきます。

「違うところへいきたい。自分が好きだった映画は、ストーリーで好きになったんじゃない。ワンショットみた瞬間に、これは素晴らしい。それが、映画だと思っているから」

 

創作者というのはやはり因果な生き物だと思います。

もうこのタイミングでは、引退宣言をした宮崎駿ではなくなっているところが素晴らしいです。


そして、宮崎駿は、鈴木敏夫プロデューサーに「長編映画 覚書」を提出するのです。

 

終われない人、宮崎駿


長編について意思を固めた宮崎駿が、奥さんにまだ言っていないといいながら、その覚悟を語るシーンが、まさにクライマックスシーンとなっています。


鈴木敏夫プロデューサーに「絵コンテを描いて死んだら映画が大ヒットしますよ」といわれて、「俺が死ななきゃだめじゃん」と返す宮崎駿の、おもしろくなさそうな表情。

引退した、といいながら、やっぱり創作するということを捨てられない男の性が伝わってきます。


「だから(奥さんに)言うときは、途中で死んでも十分に考えられるから。そういう覚悟でやるから認めてくれと言うしかないですね。だけど、何もやってないで死ぬより、やっている最中に死ぬほうがまだましだね」


まさに、この言葉こそが、全世界の宮崎駿ファンが聞きたかったことでしょう。


「死んではならないと思いながら死ぬほうが」


宮崎さんの長編映画が動き出すかどうかはまだわかりません、と番組ではしめられていましたが、この番組で伝えたかったことは、おそらく、一つでしょう。

宮崎駿は、まだ引退していない。


「終わらない人 宮崎駿」と題されてはいますが、「終わらない」人なのではなく、「終われない」人、宮崎駿なのです。

 


以上、『終わらない人 宮崎駿 NHKスペシャル」を見て/感想』でした!

 

 

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