潰れた魂に義足は付かない。アル・パチーノ主演/セントオブウーマン 夢の香り
「セントオブウーマン 夢の香り」は、名優アル・パチーノがアカデミー主演男優賞を獲得した作品です。
劇中で、瞬きをほぼしないという演技もさることながら、メソッド演技法を駆使した徹底した役作りによる迫力は、見るものを圧倒します。
名作と呼ぶに相応しい「セントオブウーマン 夢の香り」について、心が疲れてしまった人にオススメしたい作品ですので、解説してみたいと思います。
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振り回される主人公
主人公であるチャールズは、名門ボストン高校に通う学生です。
ただし、家が裕福ではないため、級友がアメリカの祝日サンクスギビングで旅行をしたり家に帰ったりする中にも関わらず、バイトを探します。
ちなみに、サンクスギビングは、アメリカ人がもっとも大事にする祝日の一つであり、家族で過ごすのが当たり前とされている祝日なのです。そんな日にバイトを探すというのは、よほどのことだと思っていただいていいと思います。
見つけたバイトは、盲目の軍人であるアル・パチーノを世話すること、というものでした。
それと同時に、彼は、友達が起こしてしまったバカな事件を見てしまいます。
その犯人を校長に告げ口すれば、大学への推薦をもらうことができ、断れば退学というとんでもない二択を突きつけられたチャールズ。
彼は、悩みに悩む中、アル・パチーノに連れられてニューヨークを連れまわされることになる、というのがこの物語です。
はじめこそ、元軍人であるアル・パチーノ演じるフランクに振り回されてしまうチャールズですが、次第にその魅力に惹かれていきます。
フランクは、非常に気難しい男ですが、決して悪い人間ではありません。
口はうまいし、観察力に優れており、女性のことが大好きな、ある意味スケベ親父なのです。
はじめこそ、チャールズは、やれやれといった感じで付きあわされますが、チャールズが一番可愛いと思った女性にあっさり声をかけます。
付き合っていると思われる男性がいるにもかかわらず、ダンスに誘い、見事にダンスを踊りきるのです。
また、彼が学校の友達を裏切るれと言われて悩んでいる中、アル・パチーノは彼の状況を見事に見抜いていく洞察力からも、彼の大人っぷりが伝わってくるのです。
そう、圧倒的なまでの大人の男っぷりに、惹かれない人間はそういないはずです。
ハロルドとモード
さて、この映画は、本ブログでもニャロ目が紹介している映画「ハロルドとモード」の影響を強く受けていると思われます。
ハロルドとモードは、自殺する真似をして人を驚かしたり、他人の葬式に参列することを趣味としている陰気な少年であるハロルドが、79歳の老婆と出会い、人生の楽しさを知り、やがて恋に落ちるという物語です。
モードは、80歳になったら自殺する、と主人公に伝えます。
モードは主人公であるハロルドと様々な無茶をさせます。
街路樹を引っこ抜いて、他の場所に埋めようとしたり、白バイからバイクを盗んで走ったり、一緒に水たばこを吸ったり。
今まで、何の生きる希望も見出せなかったハロルドが、明らかに自分よりも先が長くない老人であるモードに、人生の楽しさを教えられる、というところが素晴らしい傑作映画です。
「セントオブウーマン」では、アル・パチーノが純真な青年であるチャールズに人生の楽しさ、女性との付き合い方、大人の世界というものを体験させます。
しかし、アル・パチーノは、ハロルドのようにその一方で、人生に絶望していたのです。
やりたいこと全部、やっちまおうぜ
アル・パチーノ演じるフランクは、ある計画を立てます。
それは、自分のやりたかったことをやって死ぬことです。
そのため、高級なスーツを仕立て、いいレストランで飯を食べます。
また、彼は、兄のところにいくのですが、まったく歓迎されません。
よくきたな、と言ってくれるかと思ったら、どうしてきたんだという風に非常に邪険に扱われるのです。
この物語で、アル・パチーノは、孤独な男です。
軍にいることで出世していた彼ですが、視力を失い、やがて生きる希望を失っていきました。
彼の周りにはちゃんと彼を助けてくれる姪一家がいますが、彼は心を開かず、いじわるなことばかり言うのです。
そんな中、純粋な青年であるチャールズと出会うことで、心を開いていく、というのが見所です。お互いがお互いにとってかけがえのない存在になっていくのです。
彼のやりたいことの一つに、フェラーリを運転するというものがあって、目の見えない彼が運転席に座って、すごい速度をだす、というところは、観ていてハラハラします。
アル・パチーノは高級な娼婦を呼んでホテルで事を行いますが、その後の彼は非常に無気力になってしまいます。
結局、いい服をきたり、いいものを食べたり、いい女を抱いたりしても、彼は満たされなかったことがわかります。
題名の意味
「セントオブウーマン 夢の香り」という題名ですが、原題も同じscent of a womenです。
直訳すれば、女性の香り、色香といったところなのですが、それではなんか映画の内容が誤解されないため、夢の香りとしたのかもしれません。
盲目であるアル・パチーノは、女性の匂いに敏感です。
気になった女性の香水をあてたり、内面まで推察してしまいます。
彼はチャールズを助けた後、好みの匂いの女性に出会います。
彼は再び生きる気力を取り戻し、家族のもとへ戻っていく様は、大変心温まるものとなっています。
また、この映画の最大の見所は、アル・パチーノが行う大演説です。
チャールズの友人が起こしてしまった事件を裁くための諮問委員会のようなものが開かれます。
チャールズは、校長に友人を裏切るように仕向けられるのですが、彼は決して裏切りません。
そして、アル・パチーノが弁護します。
「私は多くを見てきた。ここの生徒よりも若い少年兵が、腕をもぎとられ、足を吹き飛ばされた。だが、誰よりも無残だったのは、魂をつぶされたやつだ」
そして、言うのです。
「潰れた魂に義足は付かない」
魂の高潔さというものが、どういうものか。人間の勇気とはどういうものか、ということがありありとわかる、素晴らしい演説です。
また、その演説の中で、大人であるものたちが、どうやって若者たちの前途をつぶさずに、彼らの汚れていない魂を育てていくのか、ということも語られるのです。
若い主人公の揺れる心情を物語の前半に置くことで、中盤でもまったく飽きさせることのない脚本の構成力。
2時間半という長尺でありつつも、まったく飽きることない編集と、アル・パチーノの演技力は、見事としかいいようがありません。
若いときにみても、年齢を重ねてからみても、得るものが大きい映画が「セントオブウーマン 夢の香り」となっておりますので、何度でも、その香りを嗅いでみていただきたいと思います。
以上、潰れた魂に義足は付かない。アル・パチーノ主演/セントオブウーマン 夢の香り でした!