シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

忘れられない恋を忘れよう/エターナル・サンシャイン

エターナル・サンシャイン (字幕版)

 


皆さん、忘れたい記憶はありますか。

失敗してしまったことや、みんなの前で恥をかいて、もう何もかも忘れてやり直したい、そんな悪魔的衝動にかられたことのある人は、数多くいると思います。

その中でも、それが恋愛という土俵の上であれば、その数は数限りないことになるのではないでしょうか。

恋人への何気ない言葉で入ってしまった亀裂。


嫌な記憶によって、前に進めなくなる人だって数多くいるはずです。


失恋した人間にとっては、その存在が大きければ大きいほど、次に進むための力が必要になります。

そもそも、そんな記憶そのものがなかったなら、どんなに楽か。


なかったことにしてしまえば、心は傷つかない。

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そんな、囁きを映画にしたのが、「マルコヴィッチの穴」や「アダプテーション」で名を馳せた鬼才チャーリー・カウフマンが脚本した映画「エターナル・サンシャイン」なのです。

 

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ジム・キャリーがシリアスな演技


主人公のジュエルを演じるのは、ジム・キャリーです。

ジム・キャリーといえば、かぶるとものすごい力と本性がむき出しになるマスクが登場する映画「マスク」や、自分の人生の全てがテレビ中継されて、作り事の世界で生きる男の物語「トゥルーマン・ショー」で、一気に名前を売った俳優であり、コメディアンです。

 

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明るく、純真な人間を演じることが大半のジム・キャリーですが、「エターナル・サンシャイン」では、鬱々としした主人公を演じます。

話よれば、サービス精神旺盛なため、ジム・キャリーが素の演技になるまで、撮影をしなかったという話もあるそうです。


物語の冒頭で、ジョエルは青い髪の女性に会います。


一人衝動的に乗ってしまった電車で行き着いた砂浜。

そんな光景の中、出合った女の人が、突然「いま、あなたの優しさが好きなの」と言ってきたら、普通だったら頭がどうかしていると思うでしょうが、作品をみていくにつれ、その理由がわかってきます。


ただ、ケイト・ウィンスレット演じる女性が、もう、絶対危険な人に見えてしまうのですが、この映画は、非常に単純に1回目と2回目の印象が変わる映画ですので、映画をみてから解説を読んだほうがいい、と思う人がいるかもしれません。

 

貴方の記憶、消します。

 

主人公であるジョエルは、ケンカした彼女と仲直りしようとして、彼女の職場に行きます。


すると、彼女は自分のことを他人のように見て、すでに若い男といちゃついているのです。

ショックを受けた主人公は、友人のところへ行き相談すると、とんでもないことがわかるのです。


「クレメンタイン・Kは、記憶からジョエルBを消去。彼との過去を話さないように」


そして、ジョエルは、彼女の記憶を消した会社へと足を向けるのです。


そこは、診療所のような場所です。

すでにお客さんも多くいて、にぎわっています。

 

受付の事務の人と、医者の一人が付き合っていそうな雰囲気があるところが、一つのポイントになっているところが面白いです。


この会社では、記憶から消したい人物に関係するものを持ってきて、それを見ることで刺激を受けた脳の部位に刺激を与えて、消してしまう治療を行っています。

「記憶にある芯を抜くんだ。そうすれば記憶は消える」


死んだ愛犬との記憶を消そうとする人や、自分の過去の栄光を消そうとする人までいます。

 

記憶を消すことの恐ろしさ


「クレメンタインの記憶を消して欲しい」


そういって、記憶を消す作業に入りますが、この物語は、記憶というもっとも個人的なことについて取り扱うことへの恐怖も描いています。


寝ている彼の横で作業をする人たち。

彼らは、平気でお酒を飲み始めます。

機械の自動操作でほとんどできるそうですが、仕事に全然集中していません。

 

そうしている間に、記憶を消している人間達は、彼女を呼んで踊り始めたり、飲み会を始めたりして、とんでもないことをやり始めるのです。

 

しまいには、記憶を消した女性と付き合っていることまで告白する始末で、あきらかに、彼らは記憶の消去を個人的な理由で悪用していることがわかってくるのです。

記憶を消すときに、相手の個人的な情報を知ることができるため、その記憶をつかって、相手が好むような情報をもって、相手を話すことができるのです。


記憶を扱うということは、悪用されればとんでもないことになる、というのがわかります。

 

記憶の中のたたかい

 

主人公は彼女との出会いを思い出していきます。

時に、ハロルドとモードのハロルドのように、自殺ごっこをして彼女の気を引こうとしたり、子供についての考えで対立したり、悪い記憶が薄れていきます。


ですが、彼女との楽しい思いでも沢山あったことに気づくのです。


ネタバレを含むので、ぼかしていいますが、この物語が伝えたいことは、やはり、記憶を消すことでは人間は前に進めない、という事実でしょう。


記憶を消した複数の人間が登場します。

いずれも、自分の記憶が障害となって前に進めなくなってしまった人たちです。


ですが、同じ過ちを繰り返してしまうのです。

人間は記憶をもって、覚えているからこそ、同じ過ちをしないように努力したり、回避したりできる。


特にソレが恋愛という事柄になると、頭だけではなく、もっと自分自身の深い部分が影響しているのだ、ということをSF的な設定を通じてわかります。


そして、主人公は、彼女との記憶を消されないために、彼女自身を、自分の別の記憶へと隠そうとするのです。

 

記憶を消した男女が再び出会う物語

この物語で、ケイト・ウィンスレット演じる彼女は、すごく情緒不安定です。

その理由は記憶を失っているからにほかなりません。

自分の中にあった大事なものが失われているわけですから、それは不安定になるのは当然です。

この物語を2回みたとき、登場人物たちが交わす目線などに注目することで、その関係や気持ちがわかるようなつくりになっています。


鬼才チャーリー・カウフマンが作った悲しくも美しい物語の記憶を忘れないよう、見ておくのもいいかもしれません。


以上、「忘れられない恋を忘れよう/エターナル・サンシャイン」でした!

 

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