相米慎二監督、デビューす。 『翔んだカップル オリジナル版』(1982年)
『翔んだカップル オリジナル版』は1980年に公開された『翔んだカップル』のディレクターズ・カット版で15分ほど長くなっております。
相米監督のデビュー作でもあり、鶴見辰吾・薬師丸ひろ子の初主演作品という初々しい作品です。
その後、開花することになる相米監督独特の演出が作中のそこかしこで見つけることができます。
今回はその相米監督の絵作りを中心にこの作品を語りたいと思います。
全てはここから始まった
原作は柳沢きみおのマンガ作品。
主人公・勇介(鶴見辰吾)と圭(薬師丸ひろ子)はクラスメイトでありながらひょんなことから二人きりで同棲することになります。次第にお互いを意識するようになる二人でしたが、そこに同じくクラスメイトの中山わたる(尾美としのり)と杉村秋美(石原真理子)が絡んできて…という青春ラブストーリーです。
本作は恋愛映画でありながら青春の苦悩も盛り込まれ、単に能天気で明るい印象を与えるものではありません。
それは相米監督の絵作りの影響が大きいためです。
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現代では考えられないくらい、ヒロインの薬師丸ひろ子の顔のアップが少ないのです。
相米監督の演出術
そんな相米演出を見ていきましょう。
一番印象に残ったのは、主人公の同居人が同じクラスの女の子だと判明した場面の構図。
画面奥に圭が間借りすることとなる部屋、画面右に二階へ続く階段、画面左に電話器があるのですが、この構図は度々出てきます。そして一度出ると簡単にはカメラが切り替わりません。階段や電話というものも後のストーリーに深く関わってくるので、映画に必要なものをピタリと画面におさめ印象付けます。これは素直にうまいなと感じました。
相米の代名詞といもいえる長回しは本作ではそれほど極端にはでてこないのですが(脚本段階でのアイデアとしてはオープニングにあったらしいのですが遠慮したのか撮影しなかったそうです)、本作は1シーンが長く、むやみにカメラを切り替えない落ち着いた絵作りがなされています。なので全体的に静かな印象をうけると思いますが、場面場面がしっかりと記憶に残ります。
特に好きなシーンは拾った自転車の手入れをする勇介と、勇介がクッキーを貰ったことに嫉妬した圭がその自転車に勝手に乗り、坂の下にある物置(?)のようなところに突っ込むところ。
一連の流れをカメラを切り替えずにとっていて感心しました。ここはぜひみなさんにもみてもらいたいシーンです。
その他、雨の中を圭を探す勇介や、ラスト近くのもぐら叩きのシーンなど切なくていい場面が次々と登場します。先ほども触れたように同じような構図・場面が繰り返し登場するのもまた本作の特徴です。
それでも観客を飽きさせないのはさすがといえますね。
演技に関しては俳優を罵倒しながらも、自分で考えさせていたようです(鶴見辰吾かたるところによれば、演技プランを聞いても教えてくれない、俺もわからないんだからお前も考えろといわれるそうです)。また、急遽その場にいた人を出演させるなど、一作目ということもあってか様々な手法を使いながら映画を作り上げたようです。
さきほど登場した「もぐら叩き」のシーン。これは物語の主要四人が最後に揃う場面で非常に重要なのですが、相米はここでもアップを使いませんでした。会社側としてはここでこそ俳優のアップをとらないと意味がないと主張し、相米に撮り直させましたが結局彼は最後までアップを使いませんでした。おそらく絵がありきたりになる=陳腐化するのを拒んだのでしょう。会社側の相米に折れ、結局元のままで上映されました。一作目から主張するべきところは主張する。相米監督の個性が溢れるいいエピソードですね。
『翔んだカップル オリジナル版』感想・評価まとめ
ということで映画本編の内容をほぼ無視し、演出の話だけになってしまいました。近年、本作はレンタルショップでも見かけるようになったので手に取りやすくなったと思います。現代風な分かりやすい青春恋愛映画ではないと思いますが、当時の新進気鋭の相米監督の才能の萌芽をみられる作品でもありますので、一度ご覧になってみるのもいいと思います(薬師丸ひろ子チョーかわいい)!
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