やくざだけど野球をやってみた。 岡本喜八『ダイナマイトどんどん』(1978年)
今回ご紹介する映画は岡本喜八監督の『ダイナマイトどんどん』。
戦後、民主主義がアメリカから持ち込まれたことにより、それまでの血で血を洗う「抗争」から「野球」でやくざ同士を競わせて、平和的に社会に溶け込ませるという内容。
実際に東映などの任侠映画に出演していた俳優たちがコメディタッチに野球をするという、「任侠映画・やくざ映画」のパロディ作品でもあります。
戦後民主主義とやくざ達
舞台は昭和25年の九州。菅原文太の所属する岡源組と、新興成金やくざの橋傳組は抗争を繰り返していました。
進駐軍の視線を意識した警察が、地元やくざ同士の争いをどうにか止めたいと考え出したのが「野球」。
トーナメントで野球大会を開き、やくざの闘争心をうまくおさめつつ、平和的に解決を目指す。
スポンサードリンク
?
文太アニキはやくざが野球で納得できるか! と参加せずにいましたが、恋する相手である宮下順子の亭主・北大路欣也が出所し、順子のもとに戻ってきたこともあり、次第に大会に積極的になっていきます。
欣也は岡源ダイナマイツに加入、野球の経験もある上に、順子との恋路のために指をおとしたことから魔球を投げられるようになっており、弱小とみられた岡源の快進撃に貢献します。
対抗する橋傳組は、貸元の岸田森を中心に全国のやくざの中から助っ人を次々と獲得。金満チーム・橋傳カンニバルズを作り上げます。さらに裏で野球賭博を開き、金儲けを企みます。そんな中、勝ち上がってきた岡源。キープレイヤーの欣也を岸田は金と渡世上の義理を利用し、引き抜きます。
橋傳組長・金子信雄に挑発された岡源の嵐寛寿郎組長はお互いのなわばりを賭けることをなってしまいます。
欣也の裏切りに動揺する岡源たち。
文太は着流しに着替えて日本刀を持ち、小島秀哉とともに橋傳に討ち入りにいきます。
警察の到着により、文太と欣也の直接対決は途中で切り上げられ、野球大会の決勝で雌雄を決することになります。
余裕を見せながらも岡源打線を抑える欣也。
最後の最後、バッターは菅原文太。
いとも簡単に2ストライクを取った欣也がラストに投げたボールは意外な軌跡を描きます。
果たして、縄張り・女・やくざの意地をかけた一戦はどちらが勝利するのでしょうか?
見どころ満載、エンタメ野球が炸裂!
さすが岡本喜八。テンポよくカメラが切り替えられ、ストーリーが進んでいきます。途中、雨の中で文太と欣也が殴り合いを見せたり、仁侠映画の必須パートである討ち入りシーンも入れるなどサービス精神に溢れています(ちなみに文太アニキが一人で殴りこみにいこうとする途中、小島と合流しともに討ち入りに望むという場面は任侠映画お得意の「道行き」をそのまま取り入れています)。
役者陣も超豪華です。
先ほど名前を挙げた以外にも、田中邦衛、フランキー堺、志賀勝、二瓶正也、藤岡琢也、ケーシー高峰などが脇を彩ります。宮下順子の色気もいい感じです。
任侠映画を演じてきた俳優たちを使って、任侠映画をパロディした作品を撮影するという面白い試みを岡本監督はやり遂げるわけですね。
他にも、決勝戦前の酒盛りに入るシーンや、試合中のパンパンと芸者ガールズの応援合戦など観客を退屈させないシーンの連続で、これでエンタメ作品! という出来上がりなのです。
『ダイナマイトどんどん』感想まとめ
本作は著名人の間にも評価が高く、伊集院光や漫画家の藤田和日郎などが絶賛しています。特に藤田和日郎はアシスタントたちにこの映画を見せて感想文を書かせるなど創作にも役立つ作品だと評価しています。その評価に違わず、戦争/戦後といった大きな枠組みを取り入れながらもエンタメ作品として昇華する岡本監督の手腕を堪能できる作品だと思います。
岡本監督は本作と同年にSF映画『ブルークリスマス』、翌年には同じく野球を題材にしながら戦中の死にいく若者を描いた『英霊たちの応援歌 最後の早慶戦』を発表するなど精力的に活動しています。